とりつくしま
とりつくしまの「しま」とは頼れるもの、よりどころのことだそうだ。
亡くなると、とりつくしま係がやってきて、現世の何にとりつくか尋ねられる。
10人の主人公たちが、それぞれ決めたものにとりつくのだけど
亡くなった人の目線でお話が進むので、どれをとっても切なさが残る。
現世の人たちも生きていかなければならないし、
亡くなった人の気持ちを尊重してばかりもいられないから
仕方のない部分もあるけれど、読んでるこちら側は勝手に
「それはあんまりじゃないか!」とか「そうだそうだ!」とか
首を縦だったり横だったり振りながら読んだ。
私自身普段から、物を擬人化したり、魂が宿ると思っているので
何かがとりついていても驚きはないけれど
親しい人が、物になってあちらから見ていると思うと、
何故だか、ごめん、本当にごめんなさいと謝りたい気持ちになるのは
普段の行いのせいだろうか。
私が大学生くらいの頃、養蚕をやっていた叔母がシルクのスカーフを
持っていて(多分、その養蚕関係で作られたものらしい)
農家の叔母さんが持つにはちょっと派手な感じだった。
私が褒めたら、欲しがっているように見えたのか、
叔父があげたらいいと手渡してくれたとき、
叔母が珍しく素早くダメ!と取り上げた。
私はびっくりして、大丈夫、大丈夫、要らないよ!と答えたら、
取り上げたスカーフをもう一度見てから、
叔母が「いいの、いいの、あげるよ。ごめんね」とくれた。
今となっては形見になってしまったそのスカーフには
叔母がとりついていて、見守ってくれているかも
とこの本を読んで思い出した。