窓の向こうのガーシュウィン
エラ・フィッツジェラルドやジャズの歌唱の方が有名なんじゃないかな。
読み始めてすぐに、主人公の佐古さんに、私も!私も!と声をかけたくなった。
「私は成長してもいつもどこか足りなかった。足りない、足りない、といろんな人に言われて育った。
(中略)たいていは何かを失敗してから、どうも何かが足りなかったようだと気づくのだ。
わかっていればまだ打つ手はあったかもしれないのに」
わかる。わかりすぎる。私はここまで来てしまったから、もう付き合っていく他ない(笑)
世の中、色んな言葉が飛び交っていて、新しい言い回しや流行言葉、死語、
言葉遣いも生まれては消えてを繰り返して、違う方向から見たら、とても騒々しくて、煩い世界だ。
佐古さんじゃなくてもものすごいスピードでお喋りしている人の会話は聞き取れない。
佐古さんは、その喧噪の中でも、自分にとって必要な言葉を留めておける
大切な事を想う力で満たされている。全然足りなくなんかない。
全編通して沁みわたる表現がたくさんあるけど、好きな文章は
「蝶の視力は特殊で人間には見えないものが蝶には見えてる、
人間にはわからない大事なもののところへ飛んでいく」
「今日、今このときしかないと思いなさい」
宮下奈都さんの本は合う合わない物がはっきりしているけど
合ってるものを読んでいる時はいつも「静謐」という言葉が漂う。
心を落ち着けたい時に読むとじわじわくる1冊。
(あらすじ)周囲にうまく馴染めず、欠落感を抱えたまま十九年間を過ごしてきた私は、ヘルパーとして訪れた横江先生の家で、思い出の品に額をつける“額装家”の男性と出会う。他人と交わらずひっそりと生きてきた私だったが、「しあわせな景色を切り取る」という彼の言葉に惹かれて、額装の仕事を手伝うようになり―。不器用で素直な女の子が人の温かさに触れ、心を溶かされてゆく成長ものがたり。